動画収録時の音声に起こる不自然なリミッター(息継ぎ現象)の修復事例

ビデオ撮影の音声トラブル
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音声収録専門スタッフがいない場合のビデオ収録はプロであって音声トラブルはつきものです。特にリハなしで一発収録が必要な舞台や音楽案件では細かな段取りと細心の注意が必要です。

音楽コンサートなどダイナミックレンジの広い収録ではホール調整室のミキサーから送られた音声が打ち合わせと違う場合もあるようです。急な音量変化で肝心の音声が使えないことがあります。先日、音楽ホールで収録された三点吊りマイクの不自然に歪んだ音声修復依頼があり、無事クライアントに納品しました。

音楽収録に不慣れなカメラマンにありがちな音声トラブル

僕が住む地域では10月後半は中学生による校内合唱コンクールが頻繁に行われ、この時期は映像編集の仕事も業務委託先から必ず数本いただきます。日程が同日に集中し、音楽収録に不慣れなカメラマンが担当することも少なくありません。

そんな中で起こった音声トラブルは不自然なオートリミッターの息継ぎ現象

ホールでの合唱収録では会場常設の三点吊りマイクからのステレオ音声をマスター音源に用います。今回はそのメイン音源が使えないというトラブル。ピーク音量を抑えきれずにデジタルリミッターが作動。不自然な息継ぎ現象が発生してとても気持ち悪い音声に。素人が無償提供するビデオならまだしも、制作会社が扱うDVDコンテンツのクオリティとしては完全にNGレベルでした。

合唱コンテストの音声収録のダイナミックレンジはかなり広い

合唱の収録

合唱は30〜40人のクラス合唱から200人規模で学校全体で歌う全体合唱、さらに楽曲ごとに男女の掛け合いや、生声での曲紹介まで、シーンにより大きな音量差があります。レベル設定は最も大きなポイントで収録する必要があり、通しリハがない学生の発表会ではピークを想像してのシビアなレベル設定が必要。

音声の受け取りはステレオ三点吊りの音声をLR2chで無人カメラに収録予定。
しかし会場のPAでピアノ音量を補完するためのマイクが立てられていたようで、それがビデオ収録に送られる3点吊りの音声に混入。比較的音像が遠い三点吊りの音声にオンマイクの強いピークピアノの音が入ったことで、想定外の音量が入力され、不自然な音声の息継ぎ現象が全編にわたって発生しています。

<カメラの収録台数( 音声は全てカメラ本体に収録)>

1カメ[有人上手(メイン)] 音声1「カメラマイク(モノ)」・音声2「ガンマイク(モノ)」△
2カメ[無人固定(舞台引き映像用)] 音声1・2「メイン三点吊りLR」>想定外ピアノオンマイク混入 ★
3カメ[有人センター(サブ)] 音声1「カメラマイク(モノ)」・音声2「ガンマイク(モノ)」×

カメラ3台での収録だったため、もちろんサブカメラの音声も使わざるをえないケースです。

★の三点吊りメイン素材の修復作業がメインになりますが、3カメの両マイクも問題のオートリミッターがかかってしまい使えません。
1カメ固定のガンマイクのみが唯一サブミックスとして使える素材でしたので、こちらも積極活用することにしました。

収録トラブルがなかったこととして納品するための修復方法

1、オーディオレストレーションソフト iZotope RX6 Advanceに★の3点吊りファイルを読み込み修復

スペクトグラムメーター
RX6は手に入れやすい音声修復アプリケーションで最もその精度と信頼の高いソフトです。特徴は音声の成分が視覚的に
わかりやすいスペクトグラムメーターとその画像を直感的に編集できることが特徴。前バージョンですが各種機能はこちらのブログでも紹介しています。

音声修復 音割れ

簡単に説明するとグラフの上下が音の高さ、色の濃さが音の強さです。低音部の強い音が濃く表示されているのが画像でも確認できます。ステレオ素材の場合は左右チャンネルをそれぞれエディットできるため、分割(上列L-ch/下列R-ch)して表示します。

修復する3点吊りのステレオ音声はピアノのオンマイクが混ざっていますが、舞台上のセッティングと同じく左側に音像が設定されているため、ピアノのアタックピークによる左チャンネルでの損傷が圧倒的に多い。ピアノのアタックなどで可能反応したオートリミッターが左チャンネルの画面で縦に筋の模様となって表示されています。

画像は合唱で「アーーーーー」など伸ばして歌っているロングトーン部分です。正常な音源なら縦の筋は出なく綺麗に左右のグラデーションで表示されますが、このような状態では左ちゃんねるだけが「アーーア・ア・ア」と途切れたような不快な音声となります。定位が左右に揺れて気持ちが悪い。

上記のような左チャンネルの息継ぎ現象が曲の4〜8小節に数カ所づつ全編(全17曲)に渡って発生。これは修復作業の7割を占め超絶的に根気のいる作業が数日間に渡って続きました。

膨大な左チャンネル音声の修復処理はRXのSpectral Repairモジュールをメインに活用

RXを使用するユーザーにとって使用頻度が高いモジュールがSpectral Repair。ギターのスライドノイズを除去するわかりやすい下記の動画で確認ください。細かな設定は豊富な経験値が必要ですが、取り除きたいノイズ成分をメータの中から探し出しその部分をセレクトして加工します。見た目だと特定部分を除去するように感じますが、セレクトして部分の前後の音声を解析した上で自然にノイズだけを取り除くよう、再合成(リシンセサイズ)して処理できるのが特徴です。


※息継ぎ現象が発生した箇所を1箇所づつ、地道に処理します。

2、オーディオレストレーションソフト iZotope RX6 Advancedに△のガンマイク(モノ)を読み込み、
会場内のノイズやインカムで喋るカメラマンの声を除去。

RX6声を除去

カメラマンの声は点線内のように表示された

3点吊りの処理が全曲分できましたが、さすがにその素材だけを使うには損傷が激しい素材だったので、リミッターの影響がなかった1カメの

モノ音声を修復した3点吊りのステレオ音声とミックスしてごまかすことにしました。ただしこのモノ音声は会場内右手後方で撮影しているカメラマンに接続しているマイク。会場内のガヤやインカムで他カメラマンとのコミュニケーションとるカメラマン自身の声も入っています。上記画像のように表示される部分を軽減処理します。

会場全体で合唱の響きを収録している音声に対し、カメラの近くでボソボソと喋っているカメラマンの声は明確に帯域も違います。今回のケースでは判別しやすく比較的処理もしやすい部類となりますが、これが様々な音が鳴り響くロケーションでは同様の処理が難しい場合も。

曲中にボソボソと喋るカメラマンの声を聞き分け全曲分の軽減処理を実施。その上で場内のアンビエンス音声として使用に耐えうるものが仕上がりました。

3、Cubase Pro 9.5にて1、2の素材をミックス

1、2で修復した音声をおおよそ50%ずつの比率でミックスしました。SSLのエミュレーションプラグイン、EQ、軽いノイズサプレッッサーなども加え、全体を整えていきます。また、2のモノ音声も擬似的にステレオ化するためにOzoneのステレオイメージャーを入れたり、リヴァーブを少し加えたりしてなるべく違和感のないよう仕上げます。

4、Edius Pro で音声を入れ替え

元素材はEdius Proという映像編集ソフトでほとんど完パケに近いプロジェクトデータから使用音声を書き出した素材。修復マスターとして仕上げてたMIX音声をEdiusに戻して同期と音量レベルを確認。映像を再圧縮して終了です。

まとめ

総尺120分に渡る映像の音声修復はたいへん骨が折れる作業でした。いつも映像編集の仕事をいただいているクライアントさんだから、低予算でも引き受けましたが、何もトラブルがなかった案件として納品できていることを祈ります。割と大きめの修復作業の依頼は多いのですが、自主制作映画の整音案件なども増えてきました。野外ロケの多いドラマやドキュメンタリー映画などには大きくお役に立てています。

自称サウンド・リフォーマーである僕が運営するハイブリッド・サウンドリフォームでは修復だけではなく音楽作品のMIXやマスタリングも手がけておりますので、トータル的な音のクオリティを担保したい制作会社やクリエイター様からの依頼をお待ちしております。

音楽Hi-TeQ

最後までお読みいただきありがとうございました。

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