咳やくしゃみを除去したい音鉄さんのお手伝い
音声修復やノイズ除去等、音質改善サービスを運営している山川です。最近お手伝いする機会が増加中なのが音鉄さんの音源や動画です。
当方は映画作品の整音作業を手がける機会もありますが、使用される音声の下処理で多く用いられるのがiZotope社のRXというアプリケーション。ハリウッド映画を手がける超一流のポストプロダクションやプロミュージシャンのレコーディングでは定番であるPROTOOLSに連携し、オーディオ修復の分野では圧倒的シェアで活用されています。
世界最先端ツールでも万能ではありません
すでに録音済みの音声データから特定音を軽減したり除去するにはある程度の制約があります。ここではディティールにこだわる音鉄さんからのリクエストに「バッチリ対応できた処理」と「改善が難しかった処理」事例を紹介します。RX購入検討している音鉄さんにも参考になればと思います。
一口に音鉄といっても鉄道関連の録音物は多種多様。ただし、電車や駅が録音(録画)対象になるので大きく分けると電車の外(駅)か電車内。いづれのケースも広義ではフィールドレコーディングに属するため、目的の鉄道車両やモーター音以外の様々な音が混入します。
除去希望があった音の事例とその改善難易度について
ここから先はクライアントから除去希望があった音の事例とその改善難易度について紹介します。
くしゃみ・咳の除去(難易度B+)
電車内での録音では居合わせた乗客の発する音が情緒を崩してしまうため、クライアントからよくある依頼は「くしゃみ」「咳」の除去。
RXではSpectral Repairというモジュールでこれらの音を除去します。このモジュールは除去したい音の前後の音声成分を解析し、リシンセサイズ(再合成)します。そのため、前後部分の素材状態や除去したい音の長さによって改善精度が違ってきます。前後素材を判断するため収録時の非圧縮データ利用が鉄則です。既にMP4やMp3に変換されたものでは大きく精度が落ちます。
残響が多い場所だと消し込むのが難しくなる
くしゃみの場合は平均して0.8秒前後なので綺麗に処理するにはギリギリの長さ(これ以上長いと違和感が残りやすい)、残響のある場所(例えば地下ホームなど)だとワーンと長くなった分、消し込むのが困難になります。
その場合はSpectral Repairだけではなく、ノイズが混在していない似たようなロケーションの素材をコピペしたり削れて欠落した部分の穴埋めにAmbience Match(バックグラウンドノイズを合成できるモジュール)を組み合わせての複雑な処理が必要となり、消し込み難易度が高くなります。
「咳」が連続するとさらに困難に
咳はくしゃみよりもリリースは短く、単発の場合はくしゃみより消しこみ処理が楽です。しかし、「コンコン」と連続する場合は前後素材の解析が不完全になり、別の時間帯から似た素材を切り貼りしないと不自然さを回避できません。
人間の話し声(難易度A〜C)
混ざり具合によって最も難しいのが人間の話し声
駅のプラットフォームや電車内での収録に付き物なのは人間。公共交通機関の電車は過疎地にでも行かない限り、無人状態で録音するチャンスは少ないはず。音鉄マニアさんにとって必ず大敵になるのは他の乗客の話し声です。
JK(女子高生)の集団などに出くわした音鉄さんは一目散に収録場所を変更すると想像します(笑)。鉄道音コンテンツにおける人間の声は限定された周波数域に混入するので軽減は比較的容易です。
しかし、駅のアナウンスに消しこみたい乗客の声が被った場合や、会話のセンテンスが長かったりすると難易度が飛躍的に上がります。絡み具合によって軽減できない場合も多数。そういう状況下での会話除去はプロの私でも明確なメソッドがなく、常に試行錯誤の上で行なっています。
RXのスペクトラムグラフを何倍にも拡大しながら除去すべく帯域を判断します。まるで内視鏡施術をするような繊細な編集が必要です。全体データのどこに「消しこみたい会話」が混入しているかで難度が大きく変化します。反対に「あっ」とか「いたっ」とか短いものは驚くほど簡単に除去できます。
まとめ(RX導入判断について)
上記はほんの一例ですが、iZotopeのRXは多種多様な音質補正が行えます。ただ、これまでDAWなどの音声編集経験のない方には敷居が高いアプリケーションであることは確か。
最近では日本語によるチュートリアル動画もYouTubeに多く掲載されています。複雑な処理まで解説している動画は見当たりませんが、内容によってはワンタッチに近いオペレーションで劇的にノイズ処理ができたりすることもできます。
導入するには以下の点をチェックが必須。
- ある程度のヘッドフォン、オーディオインターフェースの所有
- イコライザーを扱えるエフェクトの基礎知識
- 長期間に渡って試行錯誤する根気
上記に懸念がないようなら、簡易版のElementや通常版から導入をオススメします。当方はRXを活用した多種多様な音質改善サービスを運営しております。プロアマ問わず誰もが利用でき、パソコンが苦手なシニア層の鉄道マニア(音鉄)さんの音源を処理することもございます。
また、ZOOMなどでの遠隔オペレーション授業もお受けしますので、がっつり使い込みたいからからのご相談もお待ちしております。
営業サイトからのお申し込みをお待ちしております。