ワイヤレスマイク使用時にありがちなノイズトラブル対処法
先日、海外在住の日本人クリエイターの映像作品をお手伝いしました。これから発表する作品なのでコンセプトは詳しく伝えられませんが、楽器を手にしたミュージシャンにインタビューする動画が時間軸編集のないスタイルで表現されています。インタビュアーとミュージシャンはそれぞれワイヤレスマイクを装着してマルチトラックの音声として収録されていましたが、演者2名のワイヤレスマイクのメイン音声の各所に音声トラブルが主な問題でした。
動画編集される方はAdobe製品を使用されている方が多いため、Adobe Auditionを使用し、ノイズ処理を試みるケースが多いようです。オーディオ編集はきちんとしたモニター環境が必要だったり、繊細なEQセッティングに精通した人でないと簡単に使いこなすのは難しい。ご依頼のクリエイターさんが手詰まりになり僕のが運営する音質改善サービスに相談いただきました。
ワイヤレスマイク(ヘッドセット)使用時に問題となったノイズ種類など
①電波障害による「ブチ、ブチ」というクリックノイズ。
②衣服とマイク擦れによる「ズザ」っというノイズ。
③マルチマイク使用とセッティングによるハウリング。
④電波跡切れによる無音部分のオーディオクラック。
⑤その他会場内のノイズなど。
上記のようなノイズが主だった音声トラブル。
素人が記念に記録する分にはギリギリ「あり」かな、という感じですが多くの人の目に触れることが前提の「作品」の場合はやはりクオリティが必要。音質が悪いと全体の印象が貧疎になる場合がほとんどです。
元データを破壊してしまうマイクに触れる強いノイズ
上記のノイズを改善・修復するにあたって最も厄介だったのが②のケースです。ワイヤレスマイクに直接触れて衣服とこすれた音は非常にノイズレベルが強く、その他の音声をかき消してしまいます。演者が話していないタイミングなら結構処理は簡単ですが、かき消された会話を復元するのはこの場合ほとんど難しい現状です。
今回は問題のあるワイヤレスマイク以外にも楽器収録のマイクや使用を想定していなかったカメラマイクを含め合計9トラックのオーディオデータがあり、部分によっては他の素材を加工して継ぎはぎのようにパーツを付け替えたりします。
当然他のトラックは演者の口から最も近いマイクよりも遠くから聞こえるエコーを含んだ音声ですから耳元でささやくような音質に変更するのはきわめて困難です。似たようなトラブル改善もたまに承りますが、こういったマルチトラックの素材がある場合においてはリヴァーブ軽減処理を含む様々な複雑な処理でなるべく近い音をシミュレートします。
マイク位置が違う素材をツギハギで使うための音処理手順(主にiZotope RX6 ADVANCEDのプラグインを使用する場合)
1.まずはDAW上で完全な同期をとる(使用を前提としていないカメラマイク素材を使うケースなど)
2.残響成分を削るde-reverbe((素材が声の時は違和感が大きいので薄く)
3.圧縮する前に持ち上げたい帯域と持ち上げたくない帯域を考慮しEQ加工
4.圧縮して音をなるべく前に出すCompressor・Limiter(サードパーティー各種プラグイン)
5.まだ音像印象が近づかない場合はエキサイターで帯域プレビューしながらお化粧的な色付け
6.Match EQ 元音声の周波数特性に完全にマッチさせる。
参考までに下記に改善例などのリンクを貼ります。
2.リヴァーブ成分を減劣させるDereverbe
4.OzoneやNeutronに付属するExiterは帯域別モニタープレビューが使いやすいので、必要な声の成分などを付加しやすい
6.Match EQの実用例。
異なるロケーション素材の質感を合わせるチュートリアル動画。
このようないくつもの細かな処理をやりくりして素材を修復していきます。
ちなみに冒頭に示したノイズ①③④は最新のオーディオレストレーションソフト、RXであれば
割と簡単に処理することができます。
諸々のノイズ除去代表例をこちらのブログでも取り上げていますので参考までにどうぞ。