音声ノイズ除去が困難すぎたVHSに挑戦した結果
YouTube動画の音質向上サービスをスタートしたため、無料トライアルキャンペーンを継続的に実施しています。アマチュア・ミュージシャン向けのサービスの性質もあり、演奏ジャンルはもちろん、アマチュアならではの様々な収録状態でサウンド・リフォームの依頼を頂きます。
バンド系の演奏する機会が多いライブハウスですが、出演すると出演料(チケット最低ノルマ)の他、オプション料金として機材レンタル代などのほか、ほとんどのライブハウスでビデオ撮影オプションがある。最近では固定位置の1カメ映像ではなく、メンバーそれぞれのアップもある、マルチアングルでビデオ収録してくれるところも少なくない。高い音圧で収録できる音声も最近はとても奇麗なものが多い。
VHS時代のライブハウス収録されたのビデオの特徴
40〜50代の元バンドマンは「そうだったよね」と思うかもしれません。これらのビデオがVHSベースだった80〜90年代。メンバー以外の人にあまり見せたくない代物だった。↓↓↓
上の動画はノイズも少なく、バランスもそれほど悪くなく、1996年当時では最高レベルのビデオといえます。(現在も運営する都内のライブハウス収録)
アナログ時代はノイズも多く拾ってしまうために、多くのライブハウスがPA卓の2ミックスからライン録音されたビデオが主流でした。お聞きの通り、ロックンロール調の曲を演奏していても全然、迫力がない音色です。
客席と近い小型のライブハウスはドラムやギターアンプにもライブハウスのメインスピーカーから出力するためにマイクが立てられます。でも狭い場所だとマイクなんか立てなくても(特にドラムとか)は良く聴こえますよね?だからライブハウスのPAさんは直接聞こえる生音との良いバランスをとり、お客さんが楽しめる音作りをしてくれています。ライン録音はその生音成分がない状態でスピーカーから出ている音を録音するため、会場内の響きなども拾うことはなく、ライブハウスで体感している音と大きなギャップのある非現実的な迫力のない音になってしまうのです。
盛り上がったライブでも後でプレイバックする音源はこれしかなかったバンドも多かったはず。当時のミュージシャンはこの音質にガッカリすると同時に、絶対にメンバー以外に聴かせたくない人が多かったに違いない。
VHSビデオデッキはまだ販売しているのか?
amazonで「VHSデッキ」で検索するとトップページで表示された新品は1アイテムだけでした。DVD化されていない古い映画を見る方や、それらをデジタル化したいユーザーが購入しているようですね。
状態の悪いデッキで再生すると当然ですがデータが損傷します
さて本題ですが、先日お客様から「30年近く前のVHSから取込んだYouTube動画」のノイズ除去をご依頼いただきました。おそらく再生ヘッドに問題があり、数十秒おきに「ザッ」というノイズが入り、非常に耳障りでした。修復を希望されるだけの素晴らしい演奏だったので何とかしたいと数時間に渡ってこのオーディオ素材と格闘しました。
所見ではおそらく割と簡単に軽減できると思っていましたが、想像以上に厄介で自身でも納得できる修復ができませんでした。
単なるノイズリダクションとは一線を画すオーディオ・リペアソフト
ノイズ除去に米国izotope社のRXというオーディオリペアソフトをメインで使用しています。ミュージシャンが想像するノイズ除去って、エレキギターなどで利用するのコンパクトの「ノイズサプレッサー」エフェクターを想像をされるかたが多いと思います。これらのノイズサプレッサーは、スレッショルドポイント(特定の音量ポイント)を設定し、それ以下になるとドアを閉めるようにボリュームを絞るという単純なもので、ギターを弾いていない時にアンプで増幅されてしまう「シュー」というノイズを抑えるだけのもの。
このリペアソフトは全く別次元のノイズ除去を可能にします。一部の機能をこちらで紹介していますが、音成分をスペクトログラムというメーターで可視化し、修復するオーディオ版Photoshopみたいなソフトです。
Photoshopではアイコラ(笑)と呼ばれるアイドルの容姿にAV女優の体を画像融合させるような行為が問題化していました(最近あまり話題にならなくなった気がします)が、そこまではできないものの特定の音成分を解析し、廻りの音に馴染ませてしまうということができる、10年前では想像できなかった凄い代物です。
izotope社が配信している単的に解りやすい動画を紹介します。こちらはライブ音源の観客の「ヒュー」という口笛を消去してしまうサンプル。
オレンジ色に染まるメーターがスペクトログラムと呼ばれるもので、縦軸が周波数帯域となっており、メーターの上が超高域、下部分が低域となっています。黒い部分はその部分に音がないということです。音がないと真っ黒な画面になります。
上のサンプルでは演奏初めのわりと静かな部分で、明らかに目立つはっきりとした「ピー」という音がメーター上でも判断できます。この手のケースは簡単に軽減ができます。(サンプルも良く聴くと、少しゴーストが残ってます)
アレンジされた楽曲の特定楽器のみを違和感なく消したりすることはできません。もちろん多くの周波数を含んだ音はなかなか修復が難しいのが現実です。
ギブアップしたノイズとは
VHSはテープ媒体なのでヘッドと密着する部分でのトラブルは致命的です。トラッキング調整などにより軽減することもありますが、損傷レベルが大きいと修復するのは難しいです。
ヘッドフォンで聴かないと良くわからないかもしれませんが、完全にオーディオ素材を分断してしまうノイズです。流しながら聴くと「ザッ」という音が入ります。
中央の部分上部に縦縞もようが出ています。「ザッ」という連続音に聴こえますが、解析すると。ノイズの原因はコンマ何秒の間にクリップしたような「ザザザ…….」連打されている音が繋がり、結果として「ザッ」という音になっています。高音域である上のほうは、その部分を少しづつクリーニングができるのですが、低域はそこにとけ込んでしまっているのでこの部分を違和感なくクリーニングすることが難しく、いい結果を得られることが出来ませんでした。
一部の帯域にハッキリ傾向が見える音だと処理もしやすいのですが、全体域にまたがり他の音色にとけ込んでしまっている音をカットするのは非常に困難。0.2秒くらいの間に1ヶ所とかなら効果も見込めるのですが、上記サンプルのように20〜30ヶ所くらい連続してオーディオを分断してしまうとお手上げです。
数時間をかけて色々とアプローチした結果、大きく7種類の処理をしたけど、惨敗でした。もちろん、いくらか軽減されましたが、ブランドもの服にツギハギがあるような違和感を拭うことができませんでした。お客様には喜んでもらえませんでしたが、RXを使いこなすノイズ除去ノウハウ構築の良い経験となりました。筆者はRX-4の通常版を使用していますがもうRX-5が今月発売されるようですね、どんな機能が追加されるのかが楽しみです。
まとめ
デジタル化する時のダビングチェックにはくれぐれも音声もヘッドフォンでモニターする。これが鉄則です。演奏自体に問題がないのに折角の財産が台無しになってしまいます。アナログ機器は改めてハードのメンテナンスが大事ですね。VHSのダビングサービスは沢山あるからそこでデジタル化してもらうのも一つの選択肢ですね。
音楽Hi-TeQ
最後までお読みいただきありがとうございました。
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