映画制作の音声編集:整音とMAの違いとは?
〜「音」で作品の完成度を決めるポスプロの裏側〜

映画制作を学んでいると、「整音」や「MA(エムエー)」という言葉を耳にすることがあると思います。
どちらも“音の仕上げ”に関わる工程ですが、その違いを明確に説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。
特に学生映画や自主制作作品では、映像編集までは自分たちで完結できても、音声の仕上げが中途半端になりがちです。
しかし、観客が「映画として完成している」と感じるかどうかは、整音とMAの質にかかっていると言っても過言ではありません。
この記事では、整音とMAの違いをわかりやすく整理しながら、実際の作業内容・予算感・外注のポイントまでを解説します。
「整音」とは?──音を“整える”ための基礎作業
整音(せいおん)とは、撮影現場で収録した音素材(セリフ・環境音・効果音など)を整理・調整し、聞きやすく整える作業のことです。
英語では「Sound Editing」や「Dialogue Editing」と呼ばれることもあります。
整音の主な工程
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ノイズ除去(De-noise):風・空調・街の音など、不要な雑音を軽減
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音量・バランス調整:セリフや環境音の音量を均一に整える
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カットごとの音質調整:シーンによって違う録音環境を補正してつなぎ目を自然に
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空間の再現:リバーブやアンビエンスで“その場にいる感覚”を演出
整音は「撮影現場の音をどうすれば作品として聞きやすくなるか」を考える作業であり、音の“基礎化粧”といえる段階です。
「MA」とは?──映像と音を最終的に“合わせる”作業
MAとは「Multi Audio」の略称で、映像と音を最終的にミックスして完成形に仕上げる工程を指します。
いわば映画の「音の総仕上げ」。
MAの主な工程
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セリフ・効果音・音楽のミックス:それぞれのバランスを取り、全体のトーンを統一
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音の定位・空間演出:ステレオ/5.1ch/ドルビーアトモスなど上映形式に合わせた定位設定
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BGM・SEの挿入:映像に合わせてタイミングを細かく調整
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音圧・マスタリング:劇場上映や配信に適した音量・ラウドネスに整える
整音が“素材を整える作業”なら、MAは“作品全体をまとめる作業”です。
撮影現場の音声だけでなく、音楽・効果音・ナレーションなどを含めた全ての要素をひとつの映画としてまとめ上げます。
整音とMAの違いを簡単にまとめると…
| 項目 | 整音 | MA |
|---|---|---|
| 目的 | 素材の音を整える | 映像と音を完成形にまとめる |
| 主な作業 | ノイズ除去・音量調整・補正 | ミックス・BGM挿入・音圧調整 |
| 作業時期 | 編集完了後〜MA前 | 整音後〜納品直前 |
| 担当 | 整音エンジニア | MAミキサー/サウンドデザイナー |
| 成果物 | “聞ける音” | “作品として成立した音” |
つまり整音は「素材修正」、MAは「作品仕上げ」と考えると分かりやすいでしょう。
実際の作業フロー:整音とMAの関係
映画制作における音声編集の一般的な流れは以下のようになります。
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撮影・収録
↓ -
オフライン編集(映像カット作成)
↓ -
整音(セリフ・ノイズ修正など)
↓ -
MA(BGM・SEミックス、最終音圧調整)
↓ -
納品(ステレオ/5.1ch/配信用)
整音で“聞きやすく”した音を、MAで“作品の一部として聴かせる”段階へ仕上げる――という関係です。
整音・MAにかかる費用の目安
ポスプロ業界の音声編集費用は、作品規模と納品形式によって大きく変わります。以下はあくまで一般的な相場感です。
| 規模 | 内容 | 費用目安(税別) |
|---|---|---|
| 学生・自主制作短編(10〜30分) | 基本整音+ステレオMA | 5〜15万円 |
| 映画祭出品・中編(30〜60分) | 整音+効果音+MA | 15〜40万円 |
| 劇場公開クラス(5.1ch対応) | フル整音+サウンドデザイン+MA | 50〜150万円以上 |
| 放送・配信向け長編 | ラウドネス規格・国際基準対応 | 100〜300万円前後 |
都内のポスプロスタジオでは、MAルーム使用料が1時間1〜2万円程度。整音エンジニアの作業費も含め、1日数十万円規模になることもあります。
一方、近年では個人エンジニアやフリーランスの整音サービスが増えており、スタジオ費用を抑えつつ高品質に仕上げるケースも増えています。
低予算でも“聴かせる映画”にするための工夫
学生や若手監督にとって、最初から数十万円を投資するのは難しいでしょう。
しかし、低予算でも工夫次第で「整った音」を実現することは可能です。
1. 録音を丁寧に行う
整音で直せる範囲には限界があります。
ピンマイクやガンマイクを正しく使い、現場での“音の確保”を最優先にしましょう。
録音専門の担当がいなくても、その場で音声のモニターチェックは必ず行う。(後で直せないノイズが入っていることも多い)
2. 無料・簡易ツールを使う
iZotope RXのElements版やAudacityのノイズ除去でも、基本的な整音は十分可能です。
ただし、音声の上質な編集は経験値を伴うので、初心者がマニュアルを見てもうまくいかない場合も少なくありません。最終MAは外部に依頼する方が上映品質に近づきます。
3. 外注を「部分的に」使う
全編の整音を依頼するのではなく、
「セリフ部分だけ」「ノイズの多いシーンだけ」など部分的に依頼する方法もあります。
映画祭上映を意識するなら
映画祭上映を想定している場合、**音量規格(ラウドネス)やチャンネル形式(5.1ch/ステレオ)**を意識することが重要です。
音量が小さい・定位がずれる・BGMが浮く――これらの要因で審査員の印象を下げてしまうこともあります。
映画祭レベルでの整音+MA外注であれば、20万円前後から現実的なクオリティを狙えます。
上映を“音で落とさない”ためにも、ここはしっかり投資すべきポイントです。
整音・MAを外注する際のポイント
1.目的を明確に伝える
「セリフを聞きやすくしたい」「映画祭上映に耐える音質にしたい」など、具体的に要望を伝える。
2.リファレンス音源を共有する
参考にしたい映画や映像作品を一緒に提示すると、方向性が伝わりやすい。
3.修正回数・納期を確認する
後半工程になるほどスケジュールがタイトになります。事前に修正対応の範囲を決めましょう。
まとめ:音の仕上げが「映画の完成」を決める
整音とMAは、どちらも“音を磨くための重要なステップ”ですが、
整音は素材を整える下地づくり、MAは作品としてまとめ上げる最終仕上げ――という違いがあります。
音は「観客の感情を導く見えない演出」。
セリフが聞き取りやすいだけでなく、空間の響きや間の取り方まで音でコントロールできれば、映像の説得力は何倍にも増します。
低予算でも構いません。まずは、整音とMAの違いを理解し、作品の目的に合わせて音の仕上げを計画してみてください。
きっとあなたの映画は、“音が生きている作品”へと変わるはずです。
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