ボーカルのピッチ補正は万能だと思っていませんか?
ボーカルのピッチ補正はDAWを使いこなすクリエイターなら一般的なテクニックの一つとなりました。「ケロケロボイス」と呼ばれるエディットもすでに一般化した感が否めません。
実際にピッチ補正をエディットしたことのない人には、どこまで応用が利くのか判断がつかないもの。先日ギターで弾き語りをするシンガーさんより「ハンディカムで収録した演奏」の歌のピッチ修正が出来ないか?というお問合せを頂きました。
その演奏はエアマイクによるビデオ収録のため、マルチレコーディングではなく、歌とギターと周囲の環境音がステレオ2MIXされた音声が記録されています。お問い合せの解答時に「他の楽器が混じっているので、おそらく満足な結果が得られないと思いますよ」と返信はしてみたもののいざ試聴してみたら、良いパフォーマンスでほんの数カ所の「惜しい」部分があり、お問い合せいただいた気持ちを理解。頭では難しいと分かりながら実験も含め、ダメもとで弾き語り音源のピッチ補正にチャレンジしてみました。
CubaseでVariAudioでピッチ修正する流れ
①Cubase(Mac)で映像データを読み込む
Cubaseはmp4などの映像データを普通にトラックに読み込みができます。
・ファイル→読み込み→ビデオファイル→ファイルを選択(「ビデオからオーディオを抽出」にチェックを入れる)
読み込まれ分割されたオーディオデータの波形(黄色)をダブルクリックすると波形エディット画面の「サンプルエディター」が立ち上がります。
②VariAudioでのピッチ解析
画面左サイドの「VariAudio」タブ内の「ピッチ&ワープ」ボタンを押すとオーディオ内のフレーズ解析がスタートします。
③音程編集の開始
解析(5分程度の曲であれば数十秒)が終了すると画面のように、MIDIのピアノロール画面と同じように音程が解析される。
マルチトラックでボーカルのみの場合はこんなに音程差がないと考えられるが、ボーカルとギターが同時になっているため、歌っていない箇所ではギターの高音弦の音が「音程」として解析されるため一見、音程差があるフレーズに見えます。このブロックごと音程をMIDIデータのように扱うことができ、全然ちがうメロディーに組み直すことも可能(笑)。
【各フレーズをズームするとこんな感じに】
画面をズームすると音程内での細かなピッチの揺れも細かく確認ができます。
もちろん、この細かな音程の揺れも編集することができます。VariAudio内のパラメーター「ピッチを平坦化」のスライダー(横に0〜最大)を右に動かしていくと、その揺れも「平坦化」できてしまいます。エディット後画面のように最大にするとシンセのように人間的でない歌声になります(笑)通常であれば「その人らしいエッセンス」を残しながら音程を均す作業をします。これは技術よりもディレクション能力が歌の善し悪しを左右します。
これらの機能を駆使し、全体のフレーズを調整していきます。コピー曲であれば原曲の音程とちがう部分を確認しながら、地道な作業を進めていきます。ソフトウェア音源のピアノ音色などを立ち上げておくとフレーズが確認しやすくて便利です。
きちんとレコーディングしたら音痴はいなくなるけど….
今や数万のソフトに標準搭載されている機能なので、音源だけでボーカリストの実力を測るのは難しいものです。打ち込み(コンピューターによる自動演奏)が一般化した80年代後半には、演奏テクニックがなくてもプロミュージシャンになれる時代が到来したと云われたようですが、21世紀に入りそれは歌い手まで及んできたようにも思えます。それくらい楽に補正ができる道具は揃ったと言えます。
【結論】ギター弾き語りのピッチ補正は相当難易度が高い
単一トラックに収録されたボーカルならば問題なく奇麗なピッチ補正が行えます。歌+ギター程度の楽曲なら、VariAudioによるメロディ解析レベルは高く、歌のフレーズ変更は思ったよりできました。しかしここでは、未編集のパフォーマンスを超えるものに仕上げることはできませんでした。
想定通りとも言えますが、音程を外したボーカルの音程を修正すると正確な音程を出しているギターがずれてしまい、ボーカルの音程が合うと、ギターのチューニングが狂ったように聴こえます。それが補正した箇所で顕著に現れ、気持ち悪い音源に仕上がりました。
また全体的に「ピッチの平坦化」をするとオーディオの破壊レベルも上がるらしく、音質の劣化が見受けられました。便利なだけにどうしてもエディット過剰になってしまいがち。「ここぞ」という箇所にピンポイント的に使うディレクションがこの手の音源補正には一番重要な要素といえるでしょう。
お問合せ頂いたお客様にはこのテストピッチ補正の音源をご試聴いただきました。次に繋がると良いのですが。
カラオケボックスなどを利用して「歌ってみた」をアップするパフォーマーがマルチレコーディングせずにピッチ補正したりするのは、なかなか敷居が高そう。ニコ動廻りでMix師と名乗る面々はどこまでの編集能力があるのか興味深い。ボーカリストは面倒くさがらずにしっかりマルチ録音するか、生の素材を活かしたパフォーマンスとどちらが魅力的かというセルフプロデュース能力は必須といえるでしょう。
ピッチ補正といえば面白い動画があったのでおまけに
ググってみると、ボーカル録音するスタジオなどは、ピッチ補正オプションプランがある所も多いようです。そのオプションだけで1曲¥5,000〜10,000くらいのプランを見かけました。結構しますね。うちもサービス検討してみようかなあ。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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