ボーカル(歌)を除去できるアプリTRAX PRO 3を導入|初期使用レビュー

2MIXのステレオ音声から「ボーカル除去」がしたい。サウンド・リフォーマーを名乗り営業しているせいか、けっこう問い合わせがあるお題です。ボーカルキャンセラー的なプラグインは以前から存在しているが、「プロ」の音声補正技術とはかけ離れた子供騙しのエフェクトが多くきちんと「使える」と感じるものは存在しませんでした。

せっかくの問い合わせも自分の持ち合わせのソフトウェアとスキルでは困難すぎて、ほとんどお断りしたのですが、先月号(2016.10月号)のサンレコ(Sound&Recordingmagagine)を眺めていると、

「ボーカル」と「伴奏」を分離する魔法のソフトウェア、さらなる進化を遂げ、登場

という大胆なコピーを掲げた一面広告を見かけた。ユーザーのニーズを満たすべく導入に踏み切ることにした。TRAX PRO3を導入直後の視点でレビューしたいと思います。

(追記2019.6 こちらのアプリのクオリティを完全に凌駕するプラグインが登場↓ブログの最下部へ)

下記はYouTubeにアップロードされていたフルチュートリアル。歌ものの2MIX音源のボーカルとカラオケが分離されています。これまでのソフトとは一線を画すクオリティです。

『TRAX PRO』は、「メロディ/ボーカルを素早く直感的に抽出できる」ことを目指し実現した、オーディオソースをメロディとその他に分離するソフトウェアです。AUDIONAMIXの持つ様々なアルゴリズム、スペクトルの編集・加工における非破壊的アプローチ等が高次で融合することで生み出されました。優れた機能と操作画面により、少しの時間で優れた結果を得ることを可能にします。

できること

モノラル、あるいはステレオのオーディオファイルからメロディーラインを抽出し、伴奏などといった他の音と分離します。

  • 音楽作品の「ボーカル」と「伴奏」を分離し、「伴奏」のみ、「ボーカル」のみのトラックを書き出し
  • ステムの存在しない古い楽曲のカラオケの作成
  • ギターソロなどの楽器メロディーを分離
  • コーラス等の声にも対応
  • その他、オーディオファイルから特定のメロディやノイズを分離する処理

※国内唯一の発売元、Crypton Future Media, INC.より転載

音声ファイル解析からスプリットされた一発目が完成度の90%を決定か?

TRAX PRO 3はオーディオファイル(wav aiff mp3 aacなど)を読み込み、ボタン一つで音楽ファイルのボーカル(歌)部分を解析。自動的にVocalとMusicファイルが別々に生成されます。

DJが使用したい楽曲のボーカルパートを抜き出す場合はこのまま使えそうなクオリティ。ビートが効いたトラックなら細かなディティールを気にせずに利用できそう。しかしPhotoshopで画像を切り抜いたような感覚なので、切り抜き失敗した箇所は明確な欠損として感じてしまう

この切り抜き精度を向上させる作業がワークフローの第一歩。画面上部のタブ「Separate」では、ボーカル部分を解析した音程が画面上に表示されます。

ブルーで表示されたラインが歌の音程です。抜きだされたボーカルのオーディオトラックを聞きながら、「違和感のある部分」を探っていきます。違和感のある部分(切り抜き精度が低い箇所)は、歌の切れ端であるブレス(息継ぎ)のタイミングがほとんど。声が途切れた途端にギターなど、声の帯域と近い楽器の音像を誤って認識するケースが多い。アコースティックギターのアルペジオなどに反応しやすいようです。

開発者側はこの誤認識を前提とし、使用者がマニュアル修正していく手順が推奨ワークフローの初めにあります。誤解釈した部分を修正し、正確な「線(ここでは赤いライン)」で繋ぐことでその精度を高めていきます。左にある鍵盤をクリックするとその音程が発音されるので、歌いまわしの音程を確認しながら画面の音成分を判断していきます。画面下部にはツールが並んでおり、ペンシルツールや消しゴムツールなどを使って、仕上げていきます。(最上部に貼り付けた公式チュートリアル動画で具体的にエディットしています)

画面下部のタブ|C|というツールで歌のない部分を明確に認識させるための分断するツールも用意されています。

 

ファイルを読み込んで一発目に押す「解析」ボタンですが、やはり音楽ジャンルやボーカリストの声質によりきれいに切り離せる精度に差があリます。筆者がいくつか試した音源の初回解析結果の印象は下記の通り。

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初回解析の音源による試してみた音源

・サラブライトマン/Time To say Goobye・ Nella Fantasia

 オーケストラ演奏をバックにしたオケ。正確なピッチのせいか初回読み込み時でほぼ完全に歌が消えるパートもある。歌の切れ目のロングリヴァーブのゴーストが各所に残る。Nella Fanatasiaの方が全体的にきれいに除去できた。フレーズによってはほぼ完全に消去された箇所もあった。Time to say goodbyeはボーカルを抜いたことにより歌と同フレーズを演奏しているストリングスへの影響が強く出た。

・吉川晃司/Big bad baby Basterd

 独特の歌いまわしのある吉川晃司だが、結構きれいに除去できた。同氏の特徴的なしゃくりあげる歌い回し部分や、フェイク部分の誤認識が多かった。バンドサウンドも主要のリズムパートの欠損を感じずに抜き出せた。

・顧客から相談があった音源/某温泉街のテーマソング(ニューミュージック風)

 アコースティックギターを基調としたバンドサウンドをバックサウンドとしているが、初回抜き出しはこちらの音源が最もオリジナルのボーカル除去精度が低かった。男性ボーカリストで下手ではないが、有名アーティストのピッチと比べると精度が低いことも原因の一つと考えられる。メロディーの切れ目のギターのアルベジオを歌と認識してしまう部分が目立つ。

ボーカル除去してカラオケ使用するレベルに仕上げるためには

カラオケがこの世に存在しない楽曲をオリジナル音源で歌ってみたい人が結構存在します。上記で紹介したワークフローだけでは、DJやマッシュアップ用に一部分のボーカルパートのみを切り出して使用するには充分かもしれません。しかしライブなどでカラオケ使用するにはちょっときつい完成度です。

さらなる作業は上画面タブ「Process」と「Spectral」を使いこなす必要があります。1曲でも完璧に仕上げるためにはこれらの特性を理解し、数時間の作業をかけなければ本番使用できる完成度に仕上げるのは難しいと言えます。筆者は現在このワークフローを極めるために研究中です。

Processモードも自動解析を軸とした編集になるのですが、効果を顕著に感じることができていません。また、SpectralモードはiZotopeのRXの簡易版として考えていましたが、独自の仕組みが存在します。

RXと違うSpectralモードのエディット解釈

DAWや各種プラグインがそれなりに使える動くスペックのMacintoshでこのソフトを走らせていますが、Spectralモードでエディットするとなぜか突如クラッシュすることが後を絶ちません(泣)。筆者はRXというオーディオ・リペアソフトを業務使用して使い倒しております。

Trax ProのSpectralモードは見た目もさることながら、そのエディット方法も近似しています。スペクトログラムと呼ばれる音成分を可視化したメーターを直接エディットしていきます。

RXとの違い

・ノイズを消したり特定の音量をエディットするだけではなく、分断したボーカルパートのオーディオにその成分を戻す機能がある(どのエディットをした時に戻るのかは特定できていません)

・LRのステレオだけではなく、PANの位置をピンポイントで狙ってエディットができる。

ボーカル除去のワークフローの仕上げを使い慣れたRXで使用としていましたが、ボーカル側のオーディオに戻し、精度向上が望めるなら、こちらのモードも使いこなさなきゃなりません。

 

まとめ

Trax Pro 3を導入しての所見をまとめてみました。まだまだ使いこなせておらず、研究が必要そうです。テスト用のフリーダウンロードがないので導入には慎重にならざるを得ません。音響系メディアで少ししか取り上げておらず、導入検討している方にお役立ていただければ幸いです。

後半のワークフローもコツ的なものを見つけましたら、追記ブログで紹介します。

追記2019.6月現在(完全に使わなくなりました)

筆者が通常使用するiZOtope RX-7AdvancedにMusicRebalanceというモジュールが追加されました。こちらは操作も超簡単で高い精度でボーカル除去できます。筆者はTRAXを立ち上げることがなくなりました。

SoundRefomer@yamakaWA!!!

音楽・音声のリフォームサービス「HybridSoundReform」代表の山川です。 東京コンセルヴァトアール尚美 音響芸術課卒業。 高校卒業後、レコーディングエンジニアを志し同校に入学。在学中に作曲制作に目覚め卒業後は本格的に作編曲活動を開始。バンド活動をスタート。音楽プロデューサー久保田さちお氏の支援を受け、日本コロンビアよりミニアルバムを発表。 バンド解散。その後結成したユニットで数社のオーディションに通過、TBSの深夜番組「デジ屋台」出演などを果たすも大きな反響には至らず音楽活動をフェードアウト。100曲近くの楽曲を残しサラリーマンとして第二の人生を歩む。 インテリア業界でキャリアを重ね上場会社の営業本部長に就任。実家に帰省時、バンド時代の古いVHSテープを発見したことから音質改善の可能性に目覚める。 2015年 録音物の修復・改善・高音質化を手がける 「ハイブリッド・サウンド・リフォームドットコム」設立。

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