録音のほとんどがデジタル移行した現代ではスマホのボイスメモアプリでもノイズレスの録音が可能となった。マイク性能と録音ノウハウがあれば、綺麗な音を手に入れるのはむずかしくない。しかし、感度が良すぎることで収録状況により余計な音を拾いすぎてしまう新たな問題がある。
ノイズリダクションといえば古くはアナログカセットテープで耳にすることも多かった。アナログカセットには特有の「シュー」といヒスノイズが常に存在した。60〜70年代生まれの世代にはドルビーBなどのノイズリダクションは身近な技術でした。
昨今のコンピューターの進化は著しく、かつては入手が困難だった音響系ハードウェア(いわゆ一流録音スタジオに常設される高級機材)のエシミュレーション技術も飛躍的に向上し、宅録音源が世界流通するのもスタンダードになった。
ハードウェアのノウハウがコンピュータに取り込まれている一方で、コンピューターならではのエフェクト技術は進化を加速させている。「そんなの無理だよね」と、いうようなノイズ除去も次々と可能にしているのが米国マサチューセッツに本社を持つizotope社のソフトウェア「RX5(最新バージョン)」。最先端クオリティを一般人にまで提供してくれている。
RXはDAWなどで使用出来るエフェクトプラグインを統合したオーディオ・リペアソフトウェア。映画制作やテレビ番組のポストプロダクションやプロミュージシャンのミックス&マスタリングなどに使用されているプロ用ツールです。
野外ロケで収録した撮り直しのきかない音声のトラブル修復、音楽制作作業中に混入したわずかなノイズを後から除去するために使用される。クオリティが求められるプロ現場で有効活用されています。
ここでは問題あるノイズに対してどんな処理ができるのかをビフォーアフター動画を掲載し簡潔に紹介していきます。
izotope社の視聴サンプルは充実しているのですが、毎年アップデートされることから最新動画は追記的な内容が多く、ここでは主力となる代表機能に特化して紹介します。RXはAdvancedという上位版が存在するのですが、次のバージョンが発表されるタイミングで通常盤に移植搭載される傾向があります。
かなりの価格差があるため、零細企業の筆者は1年待って通常盤をアップデートして使用しています(笑)。
これらのプラグインは原則として楽器に使用するディストーションやディレイ、コーラスのようにオーディオトラックに挟んで使用するのではなく、選択したオーディオを「書き換え」するもの。プレビューモードはありますが、基本的にはバウンス使用する感覚で活用していきます。ミュージシャン系のプラグイン使いには不慣れな感覚です。
アナログ録音を知る世代なら、いつもそこにあったシューというヒスノイズ。軽度なものならDaialogue Denoiserというプラグインでリアルタイムにリダクションバランスを解析、書換えることができます。全体的にさらりと軽減させるのに便利です。程度の酷いものは次のde-noiseで細かな処理を何度も繰り返すのがコツです。
一般的にノイズ音声とイメージしやすい「ザワザワ、シュー」などが軽減できます。このde-noiseはノイズ成分を解析する音をゲットする場所が重要。ノイズ成分だけが強い箇所を解析して処理を行います。izotopeのエンジニアも大胆に処理をするのではなく、細かな処理を何度も繰り返すという作業方法を推奨しています。ノイズ成分をカットするとどんどん空気感がなくなるため、部屋鳴りを含んだアコースティック楽器などに使用する際は繊細に判断した使用が必須。
デジタルクリップなど、機械的なトラブルで起きやすいノイズ。大問題ではないけれど、結構気になるものです。これらは歪み成分が少く、瞬間的なデータならば比較的軽減しやすい。
オーディオの波形全体にまたぐ、ズザっというノイズ除去はこれまではかなり困難でした。RXの人気を決定づけたSpectral Repairというプラグインはこれらのノイズ処理も柔軟に対応できます。分断した部分をマーカーで選択し、「消去」するのではなく、前後の正常な音成分を解析した上で「リシンセサイズ」させ修復します。瞬間的なものなら違和感なく処理することができます。「ズザっ」ではなく「ザーーーーー」と続く場合は現状、改善が難しい。クリップや音声のつなぎ目などもこの処理で滑らかにつなぐことも可能。
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収録時のレベル設定ミスで、音割れトラブルがあります。撮り直しができない収録では致命的ミス。動画サンプル程度の歪みなら改善が可能です。さすがにクラブミュージックなどをスマホ録音してキックドラムごとに歪んでいるデータの修復は不可能です。画面でもあるように、レベルオーバーして頭が削れてしまっているオーディオ波形を元の音に近づけて再現するというもの。
「ブーン」とか「ジー」という電気系のノイズはデジタル時代の現代では割と多い。これらはオーディオデータの頭からお尻まで継続的に入っているから、程度がひどいと使えない素材になるケースも。ノイズ対策が施されていないスタジオ以外でのエアマイク収録だとほとんどのケースで混入しています。目立たないハムノイズでもこれらを軽減することで、全体的にすっきりした音像になります。
残響を軽減させることができるなんて、凄いとしか言いようがない。RX4Advancedから追加されたプラグインです。オーディオ全体の成分を解析して、低音部や高音部ごとにその成分をカットできます。大胆に削るアプローチをすると違和感ある感じになるので、いろいろな素材を扱って編集した人の経験値が重要になるプラグインです。テレビなどの音声では充分なクオリティですが、繊細な音楽作品などに使用するにはまだ少し敷居が高いと感じます。
明らかに分かりやすいノイズ(ここでは口笛)もカットできます。ミュージックビデオのハウリングなどにも応用できます。特定の音をカットすることはできるのですが、やはり同じ周波数帯で重なる音だけを取り除くのは困難です。筆者が運営する音質補正サービスにもたまに「歌だけ、ギターだけを取り除いてほしい」と、問い合わせがあったりしますが現状のテクノロジーでは難しいです。他の音と混ざっていない明らかな「ノイズ」ということがポイントです。
いかがだったでしょうか。ビフォーアフター動画を視聴すると「こんなこともできるのか?」と腰を抜かす驚きの技術ではありませんか?映像・音楽コンテンツ制作に関わるプロなら、これらを先端活用しているポストプロダクションも増えてきています。決してボタンひとつで改善できるツールではなく、プラグインごとのパラメーターの癖などを加味した技が必要となり、趣味レベルで使用するユーザーはまだまだ少ないと言えるでしょう。筆者はアマチュア音楽家の演奏を記録したビデオを高音質化するサービスを提供しており、こちらのソフトを高い頻度で活用しています。使用法に関するティーチングなども受け付けておりますので、気になった方はコンタクトいただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
音楽Hi-TeQ (hybridsoundjournal.net)
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