歌専用プラグインNectar2の厳選プリセット18種を録音してみた

筆者が愛用しているOzoneのアップデートキャンペーンにあやかり、Nectar2というプラグインをゲットした。目的外のオマケだったため、しばらく使用する機会がなかったが、作曲コンペ応募のために久々にJ-POP的な曲を録音したのでMIXの時に試してみました。

歌モノは主役であるヴォーカルの音作りが最終的な楽曲クオリティを左右する重要なポイント。ベテランDTMクリエイターでもプロ級の音作りをするにはかなりの技量が必要。周辺機材は良くなってもアレンジや各楽器の音色とのマッチングを考えながらヴォーカルの完成度を上げるのは難しいですよね?

最近のDAWにはチャンネルストリップが標準搭載され、ボーカルにオススメの複合プリセットも数種類入っているでしょう。しかしそれらを未調整で仕上げられる場合は少ない。izotope社が提供するこのNectar2はヴォーカル専用を売りにすることで、多様な音楽ジャンルに対応したプリセットが150種も入っている。ゴールイメージに合う音が見つけやすい。職人技で作り込まれた音をコンビニ感覚で手に入れられる便利なプラグイン。

NECTAR2の基本画面と使用法

画面下部には大きなタイトルインジケーターがあり、ここで大量のプリセットを呼び出すことができます。

 

基本的にはDAWのトラックチャンネルにインサートします。NECTAR2を開くと主要プラグインがまとめられたOverviewモードが立ち上がります。左下の「Overview」ボタンをクリックすると「Advanced」モードと切り替えることができ、各プラグインごとの詳細設定が行えます。その隣のボタンで「Mixing Mode&Tracking Mode」の切替えができます。Tracking Modeにするとやや音質を犠牲にするもののDSPパワーが軽くて済みます。他のトラックにも大量のプラグインを指しているMIX中でも気兼ねなく使え、気の利いたボタンです。

 

プリセット18種を厳選、試聴動画を作ってみました

自作曲の一部、コーラスパートを抜き出してループさせています。コンデンサーマイク(RODE NT-2)で録音したトラックにMIxing ModeのNECTAR2を挟み、トラックバウンスで書き出したオーディオをつなげています。エフェクト効果が分かりやすいよう、極力シンプルなオケにするため、歪みギターやシンセのトラックはカットしました。

150種のセッティングを聞き比べるだけでも面白い。ヴォーカルの仕上げは難しいので、どうしても手馴れている定番セッティングに依存しがち。ハイレベルのクリエイターでも新たなアイディアが得られると思います。収録ジャンルは以下の通り。

Alternative & Indie
Classical, Folk&Jazz
Country
Dance & Electronic
Hip Hop & Rap
Pop
Rock
Soul & RnB
Special FX
Utility
Voice Over & Dialogue

上記カテゴリー内の階層下に各種プリセットが仕込まれている、有名アーティストの作品を感じさせるありがちなタイトルもある。アメリカのメーカーとあってCountryのプリセットも充実しています。J-POP制作を想定に、ナチュラルなものからメカニカルなものまで、使えそうな18種を選んでみました。

動画で実使用したPreset Name(記入順に動画が再生されます)

Alternative & Indie /Dark Chorus
Alternative & Indie /Leftfield Lo-fi ★
Folk/Searching For Bob
Folk/Tap Recording
Jazz/Big Band ★
Country/Country Pop(Male) ★
Country/Hootenanny
Dance & Electronic/Big Wide Lead ★
Dance & Electronic/Electric Pop
Dance & Electronic/Down Tuned Deep House ★
Hip Hop & Rap/Spaced Out Mixtape
Hip Hop & Rap/Stuttering Chorus
Pop/Boy Band Chant! ★
Pop/Bright & Clean ★
Pop/Sharp & Bright ★
Rock/60’s Faze
Rock/Chic Lead
Soul & RnB/Pop Accompaniment

(★はコンプレッサーがパラレル設定されているプログラム)

割とナチュラルに仕上げる場合のカントリーのプリセットは好印象でした。ロックのプリセットも豊富なのですが、やや曇った感じのものが多いと感じます。欧米人の方が高音域の聴覚上感度が高いらしく、音量の高いロック系サウンドは高音域を抑える傾向にあるのかもしれません。もちろん日本人と欧米人との声質差もあり、声素材による馴染み方にも関連しているでしょう。倍音の多い生バンド録音したオケとのマッチングも当然考慮されています。

ヴォーカル処理にハーモナイザーを使うケースがあまりなかったため、色々と研究ができそうです。Down Tuned Deep HouseやRock/60’s Fazeなどのプリセットはフォルマントを積極的にいじることにより、元声から逸脱した過激な処理ももちろん可能。(プリセットは割と実使用を想定した落ち着いたものが多い)

PITCH

本格的なピッチエディターは上位版のみで別画面エディットとなるが、通常のモジュールにもオートマティックに補正するモードがある。サンプル楽曲はすでにCubase内でピッチ補正済みでしたので、オートモードでの効果はあまり感じられませんでした。トランスポートも2オクターブ内で調整することができ、オクターブあげれば簡単にファルセットボイスを作ることができます。フォルマント調整ノブもあり、積極的な音作りも可能です。ヴォーカリストじゃない自らの歌声にこだわりがないクリエイターは性別を感じさせない「ならでは」の声も作ることができます。

 

 

Saturation

至ってシンプルなサチュレーションパラメータ。アナログ、レトロ、テープ、チューブ、ウォームの5つのサチュレーション・モデルが搭載。これらがアナログ的な音の癖を生み出し、音楽ジャンルに応じた出音を左右するポイントになりそうです。

 

 

 

 

EQ

癖が少ない滑かなizotopeらしいEQです。各プリセットでも大胆なカーブ設定が施されており、声質との微調整が最も手軽に行えます。8ポイントの調整が可能。10種類のフィルターカーブが選択でき、かなり繊細なイコライジングができます。繊細な声素材にはナチュラルさが求められますが、izotopeのEQはどのプラグインでも優秀です。

 

 

 

 

De-Esser

ボーカルの音量の変化に関係なく、一貫した破裂音の除去が実現します。内部的にオートマティックに処理されます。実機dbx902をモデルとしているとのこと。

 

 

 

 

 

Compressor

 4種類のコンプレッサーから選べ、2種のパラレルセッティングモードで使用することができます。筆者はこれまでヴォーカル処理にパラレルセッティングでコンプレッサーを使用したことがなかったので、このデフォルト機能には少し驚きました。海外のプロエンジニアには定番のテクニックのようですね。性格の異なるコンプをブレンドして、それぞれのアタック、リリースタイムをずらしてセッティングされるパターンが多いようです。

上のメーター部分で時系列にコンプレッションの動きが見られるのも、コンプ設定に慣れていないユーザーにも親切です。

※パラレルセッティングされていたプログラムに★をつけておきました。(感覚で選んだPOPカテゴリのプリセットは全てパラレルセッティングだったということも驚きでした)

 

Reverb

これだけの膨大な機能があるにもかかわらず、リヴァーブは1種類のみ。プレートリヴァーヴの名機EMT140を再現。izotopeとして「ヴォーカルはこれでしょ」と結論付けた提案には頷いてしまいます。とてもナチュラルで馴染みがいいので、音像が後ろにも引っ込みません。実機にはないパラメーター(プリディレイ、カットオフフィルター、ディケイ)でリアルタイムコントロールの自由度も高い。

 

 

FX

その他エフェクトまとめラックです。Distosion,Modulate(phase,frange,chorus)などのラックが入っています。どちらかというとヴォーカルにとっては飛び道具的な使い方が想定されるので、これらは結構エゲツなくかかります。

 

 

 

 

まとめ

ヴォーカル専用のチャンネルストリップ。発売からやや経過したプラグイン(2016年3月時点)とはいえ結構使えそうです。自宅ミックスをするミュージシャンがターゲットだと思いますが、もちろん生歌だけじゃなくてボカロ用のエフェクトとしても使えると思います。一気に歌のグレードを高めることができ、同じライブラリーを使用するライバルとも差がつけられるかもしれません。

Mixに慣れている人ほど、歌の音作りには自らの定番セッティングに陥りがち。新たなアイディアを得るためにも面白いプラグインだと思います。輸入代理店であるTACSYSTEMさんのプラグインセミナーでも聞きましたが、izotope社は常にレコーディングスタジオで勤務するエンジニアの声を聞いて周り開発にフィードバックしているそうです。実用的であることに比重を置いている姿勢が「手堅く使える」ツールを生み出す一つの要因と言えるでしょう。

 

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最後までお読みいただきありがとうございました。

音楽Hi-TeQ / Hybrid Sound Journal.net

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SoundRefomer@yamakaWA!!!

音楽・音声のリフォームサービス「HybridSoundReform」代表の山川です。 東京コンセルヴァトアール尚美 音響芸術課卒業。 高校卒業後、レコーディングエンジニアを志し同校に入学。在学中に作曲制作に目覚め卒業後は本格的に作編曲活動を開始。バンド活動をスタート。音楽プロデューサー久保田さちお氏の支援を受け、日本コロンビアよりミニアルバムを発表。 バンド解散。その後結成したユニットで数社のオーディションに通過、TBSの深夜番組「デジ屋台」出演などを果たすも大きな反響には至らず音楽活動をフェードアウト。100曲近くの楽曲を残しサラリーマンとして第二の人生を歩む。 インテリア業界でキャリアを重ね上場会社の営業本部長に就任。実家に帰省時、バンド時代の古いVHSテープを発見したことから音質改善の可能性に目覚める。 2015年 録音物の修復・改善・高音質化を手がける 「ハイブリッド・サウンド・リフォームドットコム」設立。

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