マスタリングプラグインのOzone7がリリースされた。マスタリングって細かな違いが解りにくいし、マキシマイザーで音圧が稼げれば良いだけの人、難しくて面倒だからネット配信用にLANDRで済ませている人もいるだろう。
最終的な出音を確定させるマスタリングは難しいけど楽しい。音世界にこだわるDTMクリエイターはそれを極めたい。一定レベルのモニター環境があるなら、Ozoneは手に入れるべき良質なツールだと断言したい。
プロにおいてのマスタリングは音作りのほか、アルバム内の曲間調整や流通コード入力、プレス工場に納品されるDDPファイル作成など多くの作業を指しますが、ここでは音作りのマスターファイル作成である「プリマスタリング」を「マスタリング」と定義して話しを進めます。
マスタリングって音楽制作の中でもプロ寄りのニッチカテゴリー。DAW 関連のブログでも詳しい情報は少ない。楽器販売店の記事は新機能やスペック紹介に留まり、これからマスタリングに挑戦する人には理解できない内容。やや回りくどくとも、そんなクリエイターの検討材料として記事を活用してもらえたら幸いです。
Ozoneはマスタリング特化されたプラグインの集合体。スタンドアローンで2mixのファイルを読み込んで使用するか、DAWのマスターセクションにまるごとインサートする形で使用します。Advancedの場合は内蔵された各エフェクト・プラグインが独立使用ができ、DAW内のマルチチャンネルの個別トラックにインサートして使用すること可能です。
Wavelab ProやsoundBladeのようにDDPなど、CDマスターを制作するための作成するための実質的機能が完全に備わったマスタリングツールとは異なり、あくまでも音作りの最終調整になる2ミックスのマスターエフェクトという位置付けです。
上画像の最上部がロケーター、2行目がファイルセクションとなり、現在開いて曲の波形が表示されます(上画面では8曲のファイルが立ち上がっています)。中央の大きな画面が現在選択しているエフェクトのパラメーター。下の6つあるハコはエフェクトのインサートボックスです。ドラッグ&ドロップで簡単にインサート順を入替できる。内蔵プラグインの他、DAWで使用しているサードパーティーのプラグインも呼び出すこともできます。
マスタリングは、元々は1曲づつミックスダウンされたそれぞれの曲のマスターテープをアルバムにまとめる工程で、曲ごとの音量や音質にバラツキが出ないように行う作業が主でした。90年代以降、機材の進化に伴い、CDコピーしたときの音質をより良い音(派手な音)にしようという試みが顕著となり、最終的な音質を確定させる音作りを含めた編集作業へ変化を遂げました。
その当時はアマチュアの音楽家にはとても手が出ない、高価なD/Aコンバーター、ヴィンテージのイコライザーやコンプレッサーとプロならではの高級機材で緻密な仕上げが行われていました。プロアーティストとは録音時から大きく差はありますが、同じDAWを使用していても、最終仕上げの段階で大きくクオリティ差が開くポイントでもあります。
マルチレコーディングをした場合、使ったトラックそれぞれの録音クオリティーが蓄積されマスターの仕上がりに直結する。1回1回のマイクセッティング、プリアンプの選択、レベル調整、ノイズ対策、演奏のディレクションなどこれらの差があればあるほど、クオリティ差は何倍も開いてしまいます。
問題が多い音源はマスタリングで改善するより、そもそものMixをやり直す方法がベターであることは言うまでもありません。一流のレコーディングエンジニアがミックスしたものと、素人がミックスしたものとは別物といえる。プロのマスタリングエンジニアでも、そもそもレコーディング状態の悪いマスターの仕上げには苦戦します。よって、マスタリングが全て解決してくれる魔法の作業ではありません。ミックスが完璧な場合、マスタリングエンジニアは殆ど手を加えないときもあります。
アマチュアの楽曲に関わらせて頂く機会が多い筆者ですが、DAW内で簡単にアレンジ&録音ができるようになったのもあり、各トラックの音作りが素に近い音で録音された音源も多く見かけます。これをマスタリングだけで厚みを出そうとしてもプロ楽曲のような音の迫力は出せません。
Sound&Recording (サウンド&レコーディング・マガジン)2014年12月号では世界的にもトップエンジニアが所属するNYの老舗マスタリング・スタジオである「スターリング・サウンド」のエンジニア6人で同じ曲をマスタリングするという企画がありました。誰も聴いたことがあるヒットアルバムを手がけたスターエンジニア集団。6名のスタジオレポートではアナログ中心の機材がリストアップされる中、Ozone6も紹介されています。
ジョン・レノンやレニー・クラヴィッツの作品を手がけたグレッグ・カルビもその1人。今回発売されたOzone7には同氏が手がけたプリセットが標準搭載されている。音源ごとの微調整は必要だが、使いこなせればプロの匂いがプンプンする格調高い質感を手に入れることができる。
スターリング・サウンドは日本向けの営業HPを持っており、一般クリエイターでもオンラインマスタリングの依頼ができます。立ち会いマスタリングはNYまで行かねばならず現実的ではありませんが、立ち会いなしのオンラインマスタリングは1曲/425$でオファーできる(笑)。ワールドクラスのマスタリングを自身の音源で試してみたい人はチャレンジしてみては?
マスタリングスタジオでの定番的処理の流れはEQ→マルチバンドコンプ→マキシマイザーのパターン。Ozoneのプリセットも多くはこの流れを軸に組まれています。作りたい音像があったり、解決すべき問題を改善するためにその他のエフェクターがあり、上記の3つは骨格、その他のエフェクターは細かいところに融通が利く着色ツールという意味合いが強い。
坂本龍一などを手がける、サイデラマスタリング主催のセミナーで聞いた基本ルーティングは以下の通り。
再生DAW(Protools)→D/A→ケーブル(チョイス)→EQ→Comp→A/D→録音DAW(SoundBlade)、Ozoneはアナログからデジタルに戻した最終的に録音するSoundBladeにインサートして使用とのことでした。
プロのマスタリングはやはり、一般クリエイターではなかなか手が出ない高級なD/Aコンバーターを利用・選択しアナログに戻して作業するのが未だ一般的。
デジタル時代のプラグインがない時代はアナログリミッターが音作りの要になっていたようですが、マキシマイザーの登場からの処理プロセスの変化は大きく、最終的にはデジタルベースで音圧調整が行われるのが現行のスタイル。ちなみにOzoneを開発しているizotope社はアメリカ、マサチューセッツに本社を構え、今回(Ozone7)のバージョンアップもLAのエンジニアの声を沢山集めて開発が行われたとのことです。
まずは骨格のEQから。こちらは今回のアップデートでは変化がないようです。Ozoneの各プラグインはステレオ音像のコントロールに特化しているため、ほとんどのプラグインが単なるステレオエフェクトではなく、左右&センターをそれぞれ別個に補正することができます。
EQといえばCubaseやLogicProなどにも最近では標準搭載されつつあるMatch EQですが、Ozoneのは直感的でなによりもブレンド具合の操作がとてもしやすいです。下記の動画サンプルは「極端に解りやすく」解説してくれていますが、マスタリングではリファレンス(参考としたい音源)に寄せるのにとても便利です。
アレンジに使用されている楽器編成やパン(定位)バランスが近い音源だと、かなりの再現度なのでどこを上げ下げすれば良いのか解らないマスタリング時のEQ設定を研究するにも役立ちます。
(この動画は極端でMatchEQがどんなものなのか説明するのに解りやすいです)
8ポイントのイコライジングができる。Qのカーブも豊富な選択肢があり、とても緻密に設定できる。音質もデジタルとアナログが選べるがアナログは癖のない自然な音色だ。EQ単独のプリセットも多様な設定が用意されており、定番的なシェルビングカーブが研究できる。仕上げの音作りに煮詰まったとき、思い切ったプリセット変更により活路を見出すヒントになることも。
Pultec EQP-1真空管イコライザーを知ったらもう手放せない?
マルチバンドのコンプとリミッターが同時にコントロールができる。通常のレコーディングでマルチバンドコンプを使う機会は少なく、アマチュアには尻込みしてしまいがちなマルチバンドコンプ。2Mixオーディオの周波数(低域(紫)、中低域(青)、中高域(黄)、高域(赤))別にコンプレッションができる。これも6→7では見た目のアップデートはないようです。
聞き慣れたCDなどを読込み、色々なプリセットを試してパラメーターをいじってみるのが一番解りやすい。ミックスされた音源には当然、全ての楽器と歌が混ざっているがそれぞれの性格によりおおよそ固まっている帯域がある、たとえば低域にはキックドラムやベースの成分が多く含まれる。紫部分のコンプレッションを調整することでキックドラムやベース帯域を露骨にブーストすることも簡単にできる。
上では4ヶ所にセパレーツしているが、1〜4まで区切ることができる。バンド編成の歌もの楽曲なら上記のような分け方が一般的です。四角い枠の上にSボタンがあるが、これはソロボタン。エディットする帯域だけをソロで聴けるから直感的に作業がしやすい。もちろん帯域別のスレッショルド設定などもグラフが上下して直感的にコンプレッションのコントロールができる。全体的に艶やかでクセのない音色もマスタリングに特化された完成度の高いプラグイン。DAWにバンドルされているオマケのマルチバンドコンプとは数段階上を行くナチュラルさを感じます。
グレッグ・カルビのプリセットを研究してみるとハイ上がりのヌケの良いものが多いですが、このエフェクトを使用した中高域の設定なが特徴的だと感じました。世界的エンジニアのプリセットを体感するだけでも充分に勉強になります。
楽曲制作に標準的に使用されるようになったマキシマイザー。20年前と現在のCD音量が違うのはこいつの影響が大きいです。WavesやSlate Disitalなど人気マキシマイザーは多数存在しているが、Ozone7にとっても中核となるプラグイン。基本的には音を圧縮して聴感上の音量がUPするリミッターの進化版といったプラグイン。左部の棒グラフメーターのスレッショルドの調整で全体の音色(音圧)を決める。IRCというプリセットはそれぞれCPUパワーの使い方も異なるようだが、基本的にはスレッショルドを通過した後の音色変化の特性が異なる。Ozone6ではIRC Ⅰ〜Ⅲだったが、7ではⅣが追加された。
前述した世界的エンジニアグレッグ・カルビのプリセットではIRC Ⅰ、Ⅱしか使用されていない。音色としての好みもあるのでしょうが、これらはDSPパワーもⅢなどと比べると低くて済むため、Protools他のDAW上で起動させる時にはバランスが良いのだろうと想定される。Ⅰのほうがややハイ上がり、Ⅱのほうが中低域のファットさが加わるイメージがある。上部波形メーターと連携して波形のどの部分でマキシマイズされているかが視覚でも確認できる。画像ではそれほど強くかけていなが、1拍目の「ズン」というキックを中心に波形のレベルの大きな箇所のみでエフェクトされていることが確認できる。
IRCⅢおよびⅣはより音楽性に特化した音色変化が起きるセッティングになっている。DSPパワーはかなり食うとのことだが、ⅢはPunping/Balanced/Crisp/Clipingという4つのモード。割と特化されたセッティングだけに楽曲とマッチした時の効果は大きい。個人的な感想はPunpingやClipingはどうしてもファットな要素が強く、クリアさが失われるイメージがある。Ⅲの中でClispは使いやすいと感じます。
7で新たなアルゴリズムとして追加されたⅣではClasicc/Modern/Transientという3つのモードがセレクトできる。早速テストしてみたが、クリア差と切れが増したように感じる。特にModernモードは切れっキレのシャープに音像が立ち上がる印象がある。ClasiccはⅡに近い質感と感じるがより中低域のシャープさと色気が増した。
音圧戦争などが問題視された時期もあったが、より自然さが加わったOzoneのマキシマイザーはRMSレベルも相当突っ込めるようになっている。
〜その他プラグインレビュー後編はこちら〜
Ozone7の新機能はヴィンテージ祭りといっても過言ではない。
①VIntage EQ
②Vintage Limitter
③Vintage Compressor
④Vintage Tape
アナログ的な音を付加するプラグインが大胆に追加された。筆者もOzone6ではサードパーティーのUAD Herios69(EQ)やSlateDigitalのVBC(バーチャル・アナログコンプ)をインサートしエッセンスを加えることが多かった。プロの現場ではアナログEQ&コンプを組み合わせて使用するケースが多く、制作現場に寄り添った開発がされている。出音のエッセンスを大胆に変化させることもできるため、これらの機能を含めて更に反則技を生み出すエンジニアも出てくるに違いない。
実際のアナログ機材と違って、メンテナンスや個体差もなく安定感は抜群。設定状態も保存しておけるので、複数のプロジェクトを同時に扱うプロのエンジニアも重宝しているようだ。いずれのプラグインも完成度が高く、いいエッセンスを積極的に加えることができる。③のコンプは非常に使いやすい。
izotopeの人気プラグインは1年おきに魅力的なアップデートを見せつけられ(笑)、定期購入スパイラルにハマってしまいがち。筆者は今回他のプラグインとのバンドルキャンペーンでアップデートしました。アナログ領域でプロレベルのマスタリングをするには高価な機材やスタジオが必須となり、一般のクリエイターが再現するにはあまり現実的ではありませんが、Ozoneならデスクトップでも十分に素晴らしいマスタリングが行えます。
もちろん、最低限のモニター環境構築やセッティグは必須といえますが、自主流通を考えているクリエイターには本当にありがたい最強のツールは間違いなく買いです。ここで取り上げていないその他プラグインについても加筆したいと思います。エキサイターがこれまた使いやすいんです(笑)。
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音楽Hi-TeQ
最後までお読みいただきありがうございました。
〜プロダクト情報〜
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