プロの音作りに必要な要素とは?グラミー賞受賞エンジニアたちが語るミキシング哲学と、クリエイティブな音声処理の秘訣を紹介します。音楽制作の質を向上させたい方はレジェンド達が手がけた代表作品をリスニングしながら、彼らのポリシーを感じてみてはいかがでしょうか。
グラミー賞を複数回受賞しているマニー・マロキンは、カニエ・ウェスト、リアーナ、アリシア・キーズ、ブルーノ・マーズといったトップアーティストとのコラボレーションで知られています。彼のミキシングの哲学は、技術よりも「感情」にあります。彼は音楽のすべての要素がリスナーに感情的な反応を引き起こすように、音の「深さ」と「広がり」を重視し、リバーブやディレイを効果的に活用して空間を作り出します。特に、リスナーが音楽の中に没入できる体験を提供するために、音の階層を丁寧に扱うことが彼の成功の鍵となっています。カニエ・ウェストの「Graduation」やジョン・メイヤーの「Battle Studies」などの作品で、彼の特徴的な技術が光ります。
マイケル・ブラウアーは、コールドプレイ、ジョン・メイヤー、ボブ・ディランといったアーティストとの仕事で数々のグラミー賞を獲得しているミキシングエンジニアです。彼の特徴的な技術である「ブロワリゼーション」は、複数のバスを使ったコンプレッションによって、音楽に豊かな感情とダイナミクスを与えます。彼は楽曲の低音域に特にこだわり、聴き手に迫力と深みを感じさせるサウンドを生み出します。また、音楽が自然に「息をする」空間を作ることを心がけており、過度に圧縮しすぎず、アーティストの個性を尊重したミックスを提供します。
ラテン・グラミー賞を受賞したマリア・エリサ・アヤーベは、アナログとデジタルを組み合わせたハイブリッドミキシングを得意としています。彼女のミキシング哲学は「透明感」と「クリーンさ」にあります。楽曲の各要素が互いにぶつかり合わないように、彼女は繊細なバランスを保ちながらミックスを行います。特に、bx_townhouse Buss Compressor や Black Box HG-2MS などのツールを駆使して、サウンドに深みと一体感を与える手法が特徴です。アヤーベはアーティストのビジョンを最大限に尊重し、その音楽的意図を完璧に具現化するために技術を駆使します。
ル・ディアスは、DJキャレドやピットブル、ビヨンセといったトップアーティストのミックスを手掛けるエンジニアであり、彼の作品には常に「エネルギー」が満ち溢れています。彼の哲学は、トラックの持つ「動き」と「勢い」を最大限に引き出すことにあります。クラブミュージックやラテン、ヒップホップの分野では、重厚なビートとベースラインを巧みに操り、リスナーに自然と体を動かしたくなるようなサウンドを提供しています。ディアスはまた、アーティストとの密接なコラボレーションを重視し、アーティストの個性とスタイルを尊重しつつ、彼らのビジョンを実現します。
クリス・ロード・アルジは、グリーン・デイ、ミューズ、マイ・ケミカル・ロマンスといったロックバンドとの仕事で名高いエンジニアで、そのミックスは「パワー」と「正確さ」に特化しています。特に、ドラムやボーカルを際立たせるために、彼はSSL 4000 Gシリーズコンソールを使い、圧倒的なパンチ力を持つサウンドを作り上げます。彼の信条は、シンプルかつ効率的なアプローチで、トラックの本質を最大限に引き出すこと。楽器ごとに明確な分離感を持たせ、全体がバランスよく聞こえるように細心の注意を払っています。彼自身をシグネイチャーされたプラグインもWAVESなどから発売され多くのTipsもネット上に溢れています。
セルバン・ゲネアは、ザ・ウィークエンド、テイラー・スウィフト、アリアナ・グランデなど、数多くのヒット曲を手がけるミキシングエンジニアです。彼のミキシング哲学は「クリアさ」と「バランス」にあり、どんなに複雑なアレンジでも、それぞれの要素が際立つように配置されます。ゲネアは、音の透明感を損なうことなく、楽曲全体が美しく調和するように、EQやコンプレッションを駆使します。また、彼の作品は、ストリーミングやラジオでの再生に最適化されたクリーンかつ透明感のある仕上がりが特徴です。
ビヨンセやレディー・ガガ、アリシア・キーズなどを手がけるトニー・マセラティは、ミキシングを「感情を伝える手段」と捉えています。彼のミキシング哲学は、各楽器やボーカルが持つ感情を強調し、楽曲全体が一つの物語を語るようにすることです。Fairchild 670コンプレッサーやPultec EQP-1Aといったアナログ機器を使用して、温かみのあるサウンドを作り出すことが彼のスタイルです。また、リバーブやディレイを駆使し、楽曲に深みと広がりを与えています。
チャド・ブレイクは、ブラック・キーズ、パール・ジャム、シェリル・クロウといったアーティストと仕事をし、その独創的なミキシングスタイルで知られています。彼のミキシング哲学は「実験と挑戦」にあります。ブレイクは、ディストーションやサチュレーションを大胆に使用し、楽曲に粗削りでありながらも魅力的な質感を与えます。彼は特に、Thermionic Culture Vultureのようなアナログ機器を使って、ハーモニクスを強調し、音に豊かな色合いを与えることに長けています。
アデルやレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ラナ・デル・レイなどを手がけるアンドリュー・シェプスは、「シンプルさ」を追求したミキシングで知られています。シェプスは、ミックスの中で過度なエフェクトを使用せず、トラックの自然な音を生かすことを重視します。彼の特徴的な手法の一つは「パラレルコンプレッション」で、これにより音のダイナミクスを保ちつつ、パンチ力を加えることが可能です。パラレルコンプレッションによるアプローチを最大限に活用し、トラックのダイナミクスを維持しながらも音全体にパンチと厚みを加えることを得意としています。彼はあえてミキシングにおいて最小限のエフェクトを使用し、各楽器の本来の音質を尊重しながら全体のバランスを取ることに注力しています。加えて、シェプスは「イン・ザ・ボックス」(ITB)のミキシング手法を積極的に採用しており、デジタルツールの精度を最大限に活かしつつ、アナログサウンドに匹敵する音の暖かさと存在感を実現しています。彼の手掛けたアデルの「21」やレッド・ホット・チリ・ペッパーズの「I’m with You」などは、これらの手法が見事に活かされた代表例です。シンプルながらも力強く、エモーショナルなサウンドを創り出すシェプスのスタイルは、業界内外から高く評価されています。
デイヴ・ペンサードは、ビヨンセ、クリスティーナ・アギレラ、ケリー・クラークソンなど、数々のトップアーティストとの仕事で名を馳せています。彼のミキシング哲学は「創造性と革新」にあります。ペンサードは、エフェクトやプラグインを伝統的な方法にとらわれず、斬新な使い方をすることで、常に新しいサウンドを追求しています。特に、エフェクトの重ね掛けを駆使して楽曲に深みと動きを加え、音楽が進化していく感覚をリスナーに与えるのが特徴です。また、ペンサードはアーティストとのコラボレーションを重視し、彼らのビジョンに寄り添いながらも、楽曲にさらなる感情的なインパクトを持たせるための技術を駆使します。彼の作業は常に進化しており、音楽業界での先駆者としての地位を築いています。
以上、グラミー賞受賞歴のあるトップミキシングエンジニアたちが語る、各々のミキシング哲学とその代表作を通じて見られるサウンドメイキングポリシーをご紹介しました。どのエンジニアも、技術と感情のバランスを保ちながら、自身の独自のアプローチで音楽の核心に迫っています。アーティスト自身の魅力や楽曲の良さはもちろんですが、ヒットの裏側にはサウンドのクオリティを支える超絶技術と感性を持ち合わせるミキシングエンジニアが必ずいます。
私も仕事で若きアーティストのミキシングを手伝う機会も多いので、楽曲をシンプルに感じることから。レジェンド達のサウンドを研究したいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。
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