一般ユーザー向けに音質改善サービスを運営している私ですが、たまにテレビ番組制作の飛び込み案件が入ったりします。先日入った案件は、複数名登場するトーク番組。出演者それぞれの声をピンマイク収録するのですが、ゲスト5名中、3名のピンマイクが死んでいたというもの。活きていた2名のマイクから音像は遠いながらも3名の音声は拾っており、限られた音素材をなんとかベターな状態に修復するというもの。
ゲストの知名度が高いほど収録のリテイクなどできません。限られた納期で何とか許容範囲までサウンド・リフォーム(音声修復)し納品しました。
そんなことができるのか?と思うかもしれませんが、似たケースの修復をしたことがあります。その時はシンプルなインタビュー動画だったのですが、インタビュアーだけのマイクが活きていて、インタビューされる人のマイクが入っていなかったというもの。映像制作の現場ではそういったトラブルを回避できない時があるようです。
マイクに近い人の音声はくっきりと、マイクから遠い音声は輪郭がぼやけ部屋の反響が多い音像は想像できると思います。このケースは遠い音声素材をオンマイクで喋っているかのような音質に近づけるのが課題。残響をカットし、EQやコンプレッションすることで、似たような雰囲気に近づけるのはさほど難しいことではありません。
残響成分は削れば削るほど違和感が出てしまうので、自然に仕上げるためには薄く削る丁寧な編集を繰り返します。筆者がオーディオ・リペアツールの中心として使用しているizotope社のRX。録音トラブル状況に応じた様々なツールが用意されています。
会話には必ず同時に喋る「クロスする部分」があり、いかに改善したいオフマイクの音声を綺麗に抜き出すかがポイント。会話の内容により、「モロかぶり」の部分でどちらを生かすかというディレクションも重要。いずれかの会話の音声成分を判別して細かな処理を加えます。
リンク先に具体的な音質改善の手順を紹介していますが、オフマイクの音声を切り出し加工→それを元音声とミックスという流れが有効な処理方法です。
今回の案件はオフマイクが複数名だったため、ひな壇の着席位置や演者の会話ごとの声量により元素材の出音に微妙な違いがあり、抜き出した音声それぞれにベターな加工が必要となりました。音像から遠い素材を力づくのコンプレッションをするとノイズ成分も持ち上がるので、それらの追加処理も行いました。
かなり面倒な編集ではありましたが、放送後もクレームがないことを祈るばかり(これが私にとっての大成功なのでしょう)。公にできないトラブルなので細かな情報は出せませんし、番組にもクレジットは出ませんが(笑)。満足いくギャラもいただけて何よりでした。無理な案件もありますが、多くの方に利用してもらいたい音声補正サービスです。
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