DAWの進化に伴い、プロミュージシャンでも自宅での小規模な音楽制作がスタンダードになりつつあります。制作コストをかけたプロのスタジオ・ワークは業界の変化に伴い帰路に立たされています。 その中心にいたのはミュージシャンと良質な音楽を紡いできた職人。そんなノウハウを後世に伝える使命を感じた人がいる。故、佐久間正英氏だ。
ロックバンドサウンドの核となるドラム。マルチマイクでのドラム録音は素人が行うのは難しい。経験値が少ないことは仕方ないが、プロのスタジオワークが動画公開されており、そのやり取りが観れることは貴重です。
ビデオカメラのオフショットマイクだけではなく、ミキサーに通された音も収録されているので、モニター環境を整えて視聴するがお勧めです。サウンド&レコーディングマガジンが主催したとても価値のあるスタジオ・レコーディング・セミナー。YouTubeを直接視聴するとたくさんメモしなければならないので、当ブログが代わりにまとめます。 このとても貴重なセミナーの収録は約10時間に及び、3つの動画(約90分)にまとめられアップロードされています。 佐久間氏のバンド「unsuspected monogram」の曲がレコーディングされます。
歌入りの楽曲で、ドラム、ベース、ギター×2、キーボードがベーシックパート。 リズムパートから各楽器のマイキング、音決めのための仮録音を進め、バンドの音色を決めた後、メンバー全員で本番テイクをするという流れ。全体演奏してドラムのOKテイクが録れたら、オーバーダビングを進めていくという説明がなされています。
あくまでもクリエイター側はレコーディング作業を普通に進行しており、インタビュアーが「マイクはなんですか?」とか、「今の処理はどのように行ったのですか?」とか、視聴者(サンレコ読者)側の立場で質問をし、それをプロデューサー兼メンバーの佐久間氏、レコーディングエンジニアである山口氏が親切に返答していくスタイルで動画は進行しています。
おそらく2011年に収録されたもの、プロツールズに録音され、動画の後半ではボーカルパートのディレクション作業なども収録されています。アウトボードはプラグインでエミュレーションされることの多い、プロスタジオの定番機材が使用されてます。 初回はドラムのマイクセッティングの途中から始まっています。今回はこちらで話されている内容をまとめます。
Kick(IN)/ AKG D112
Kick(Out)/ SHURE BETA52
SN(Top) /SHURE SM57
SN(Bottom)/SHURE SM57
SN(Side)/※Josephson C42
HH /SHURE SM57
TOMS /SENNHEISER MD 421-II
Overheads/※AKG C414
Ambience(mono)/ Neumann U87
Ambience(Low)/ Electro-Voice RE20
・無駄な振動を抑えるためマイクスタンド固定に砂袋を使用 ・ミュートなどのドラムチューニングを確定させておく
・Kickは他のマイクと音が出る方向が違うので位相ズレを念頭に置いてセッティング
・Over Headは左右シンバルから正確に等距離でセッティング。位相ズレが起こりやすくセッティングが難しい、防止のため位相ズレしにくい成分をEQカットして録ることが多い
・SNのサイドマイクは少し例外的。上下の音で「サマにならない時」に、コンプを入れて響きを加えることがある。中間の響きが曲により有効な場合がある。
・Ambienceはステレオセッティングすることもあるが、今日は左右にギターがある曲なのであえてモノ収録している。
・Ambience(低音用)一番動かす。ONマイクと部屋鳴りの関係において低音の位相がとても重要。前後調整する。
基本はどれで聞いてもかっこいい音にしたい。ローエンドとトップエンドはラージの方がわかりやすいのでそれらを チェックしやすい(キックの吹かれ、低域の余分な濁りが無いかなど)。チェックした上で通常リスナーが再生される スペック(スモール)でチェックする。 ヘッドフォンはプレイヤー(演奏者)が聴いている状態と近い形で聞くため。ミュージシャンが聞こえている音とパフォーマンスは密接でありヘッドフォンの中で、何が起こっているかを同じ感覚で共有するのは重要。基本的にはミュージシャンに送っているキューボックスと同じ音(2Mix)を聞く。(動画中盤で佐久間氏がプレイヤーはなるべく自分のボリュームを上げず、同じ2MIXを聞きながら演奏することがポイントだと語る場面がある)
タムとアンビエンスにはコンプレッサーを挟んでセッティングしている。(かけ録り)EQはいじらないのが基本だが、コンプでパワーを出し音作りするのは面白いと思っている。TOM(MD-421)&アンビエンス(U-87)にはUREI1178を使用。Kick(Beta-52)にはTG12413Zener Limiterをインサート。低音用のアンビエンス(RE-20)にはにはFeachildを通すだけ(コンプレッションしない)で使用。厚み、色気が出るような気がしている。これらはプロデューサーと相談して音作りを決めていく。
キックのオンマイク(D-112)を逆相に切り替えた、それ単品で聞いた時は存在感があったがアンビエンスなど色んなマイクを混ぜると不自然な感じがしたので、取りやめて元に戻した。
プレイヤーや楽器特性により変化があるため、決まったポイントはなく、動かしていったところで「ここだ」というポイントに決める。エンジニアとしての感覚(好み)部分。一番注力しなければいけない所はキック2本(Beta-52/D-112)の位相関係。
Kick(IN) →NEVE1073→Feachild670(通すだけゲインアップ)→ミキサー
Kick(Out) →NEVE1073→Zener Limiter(ハイインピーダンス設定で結構潰す)
SN(Bottom&Bottom)→ヘッドアンプ(詳細不明)→ミキサー
SN(Side)→NEVE1079→Zener Limiter(ハイインピーダンス設定で結構潰す)
TOMS →UREI1178(レジオ4:1 アタック12時/リリース12時)→ミキサー
Overheads→SSL卓でEQ(250Hz,200Hzカット)※ブーストして問題がある帯域を探す
Ambience(mono) →UREI1178(レジオ8:1 アタック最遅/リリース最速)
Ambience(Low) →結果、使用しなかった
要になるキックには名高いヴィンテージヘッドアンプのNEVE1073が使用され、生ドラムの定期部分のコントロール、音作りにこだわりが見え隠れする。マイク、ヘッド(プリ)アンプ、コンプレッサーを使用。基本的には機材の組み合わせとマイクセッティングの調整により細かな音作り。極力EQせずに基本の音を録音するスタイルはとても参考になりました。
筆者が学生だった頃は要となるリズムセクションにヘッドアンプ(マイクプリ)を通すという定石も知らなかったため、何故ドラムが貧弱な音なのか理解ができなかった。
このセッションで完成された曲「kotoba」
動画ではベースやギターパートなどに続いていきます。1曲のレコーディング、仮ミックスまでに10時間のスタジオワーク。 そのノウハウを伝承するための意義のあるセミナー。しかしその後、そんなスタジオワーク伝承についての意味がなくなってきたとも感じさせるやや悲観的なブログを残している。
音楽家が音楽を辞める時(故、佐久間正英氏ブログ)
素晴らしいノウハウを残してくれたことに心から感謝です。擬似的であっても、貴重な体験です。
ドラゴン・アッシュなどを手がけるプロエンジニア、飛澤氏によるノウハウ動画が配信されています。使用されているマイクなどは違いますが。より具体的なマイキングテクニックを学ぶことができます。位相についても良くわからなかった人もここなら図解付きでよく解ります。本人が教えることを前提に説明しているのでとても丁寧です。
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これらをざっと見るだけでも、ドラムレコーディングの最低限の基礎知識が学べます。無料で公開されているなんてありがたいですね。まだまだ探せば色々出てきそうです。ぜひおすすめの動画セミナーがあったら気軽に書き込みをお願いします。
機材的な制約などでマイクの本数を減らしたバージョンなども知りたいものです。
音楽Hi-TeQ -Hybridsoundjournal.net-
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